魚治の鮒寿し

魚治の鮒寿し作りの想い

琵琶湖のニゴロブナを、創業より伝わる蔵持の菌で、二冬かけてじっくりと発酵熟成させた、魚治の鮒寿しです。

魚治の鮒寿しづくりの二年間

初春から春

2月から5月にかけて、お腹に子をぎっしりと持った姿形のよいニゴロブナを厳選し、鮮度のよいその日のうちに鮒寿しづくりを始めます。まず「ウロコ取り」「えら取り」のあと、「抜き針」といわれるまっすぐな針で浮き袋、内臓を取り出します。この「わたぬき」の時は、中の「卵」を傷つけないよう細心の注意が必要です。その後、鮒を清水でよく洗い、えらぶたに塩を詰め込んで樽に敷き詰め、上から塩、鮒、塩、という具合に交互に漬け込んでいきます。そしてふたをし、重石を乗せて2〜3ヵ月寝かせておきます。その間に鮒の体内の水分、血が抜け(血抜き)カチンカチンの状態になります。この一連の作業を「塩切り」といいます。

夏、土用の頃

いちばん暑いといわれる土用の頃が、鮒寿しづくりの立役者、乳酸菌の最も好む温度。この時期に塩切りのニゴロブナを樽から取り出してきれいに洗い、水につけて「塩抜き」をします。その後よく水切りをしたのち、えらぶたにご飯を詰め、今度は鮒、ご飯、鮒、ご飯と交互に漬け込み、水が入らないよう工夫したふたをして重石を乗せます。これに雑菌が入らないように水を張り、密封して乳酸菌発酵させます。乳酸菌は空気を嫌うため、真空状態にして働きやすい状態を保つのも、欠かせない気配りです。この作業を「本漬け」といいます。

冬、完成まで

本漬け開始からおよそ3ヵ月で骨までやわらかくなりますが、冬の寒さの中での低温熟成が鮒寿しをよりおいしくさせます。その間毎日樽の水を換えたり、重石の調整をするなど、いわゆる「守り」といわれる仕事が続きます。魚治では2年近くの間、手間ひまをかけてじっくりと熟成させることで、鮒寿しの味わいにより深みを醸します。丹念な「守り」によって純粋な乳酸菌発酵をさせた鮒寿しなので雑味がなく、通といわれる方はもちろん、初めての方でも抵抗なくお召し上がりいただけるのも特徴です。

こだわり

ニゴロブナへのこだわり

米と塩と、風土に恵まれた魚治は、ニゴロブナの中でも琵琶湖で最深といわれる安曇川の先の舟木崎から竹生島・葛籠尾崎(つづらおざき)にかけての三角水域のものを使います。それも小糸網による刺し網漁で獲れたニゴロブナを使います。深いところに棲むニゴロブナは身が締まっておいしいのです。

私たちは次の代に正しい鮒寿しを伝えていくためにニゴロブナの鮒寿しにこだわっています。

「蔵持ちの菌」と鮒寿し

昔、各家庭で漬け庭ていた鮒寿しは、家によって味が違いました。今もお店によって味が違います。それは鮒寿しを漬け込んでからの守り(もり)の仕方の違いに加えて、それぞれの仕込み蔵に棲みついて発酵し、その店の味を守ってくれている乳酸菌に違いがあるからです。

これを私たちは「蔵持ちの菌」と読んでいます。

樽を変える時には同じ仕込み蔵で漬け、仕込み蔵を建て替える時にも同じ樽を使って漬けるというように、常にどこかで以前から使っている物を受け継いで使うことで、「蔵持ちの菌」を大切に育て、守ってきました。そのおかげで魚治の秘伝の味を今に伝えることができています。

「守りをする」ということ

私たちは、乳酸菌という微生物が鮒寿しをつくってくれていると思っています。人間はただ、発酵のお手伝い、段取りをしているに過ぎないのです。漬ける作業が終われば、あとはおいしい鮒寿しに育つまでじっと見守り、必要に応じて手を加えたりするのみです。しかしそこには、長い時をかけてつきあい続ける鮒寿しへの深い愛情と理解が必要です。この過程を、先代は愛着こめて「守りをする」と呼びはじめました。