「鮒寿し」とは

鮒寿し

鮒寿しは、滋賀県の伝統的な郷土食、ナレズシという乳酸菌発酵を利用した保存食です。

現存する最古の寿司が近江地方に伝わる「鮒寿し」といわれています。
琵琶湖でとれるニゴロブナを塩漬けにしたのち、炊いたご飯を重ねて漬け自然発酵させます。
魚の保存方法のひとつとして伝えられたものです。

鮒寿しの種類

厳しい冬に捕れるニゴロブナを漬けたものが鮒寿しです。鮒寿しには「本漬(ほんづけ)」と「甘露漬(かんろづけ)」があります。

本漬は、塩漬けにしたニゴロブナをごはんに漬けて発酵させる鮒寿し本来の漬け方です。

甘露漬は、本漬にした鮒寿しのごはんを取りのぞき、さらに酒粕に漬けています。

鮒寿し独特の香が苦手を思われている方は、香が少ない甘露漬けをお試しください。

鮒寿しの召し上がり方

鮒寿しに付いた飯を軽くしごき取り、おおよそ3から5ミリ位の厚さに切り、そのままお召し上がりください。ひと切れを口に運び吟醸酒を含んでみてください。鮒寿しと吟醸酒がお互いのよさをひきたてあい、その芳醇で深い味わいはまさに絶品といえます。ことに、鮒寿しの仕込みと同じ水を使って醸した吟醸酒「竹生嶋」(吉田酒造)との相性は格別です。

一般的には子のあるまん中あたりが喜ばれますが、本当においしいのは身の締まった筋肉質の尾びれの近くかもしれません。噛めば噛むほど旨味の出る食べ物です。

また、鮒寿しは、風邪を引いたとき、熱いお湯をかけて飲むとそれが持つ乳酸菌の作用により発汗を促し、楽になるといわれています。鮒寿し自身のもつビタミン、天然の抗生物質もそれに一役かっているそうです。お腹の調子の悪い時などは、鮒寿しの乳酸菌が調子を整える手助けをしてくれます。

鮒寿しのいろいろな召し上がり方

鮒寿しの歴史と環境

鮒寿しの歴史

鮒寿しは、タイの北部から中国雲南省にかけての地域に起源をもつ「熟れ寿司(なれずし)」の一種です。今から約千四、五百年前、大陸から日本に水田稲作農業が伝わったのと同じルートで伝わったといわれます。平安時代に編纂された古代法典『延喜式』に鮎寿司などと並んで記述が見られることからも、その長い歴史がわかります。

今では、寿司といや箱寿司、巻き寿司を思い浮かべる方が多いと思われますが、これらの寿司のルーツこそが熟れ寿司なのです。現代うとにぎりの寿司は酢で酸味をつけているのに対し、熟れ寿司は発祥の頃より乳酸菌の発酵によってごはんに酸味を付けているのです。

熟れ寿司
主に魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品です。現在の寿司は酢飯を用いますが、なれずしは乳酸発酵により酸味を生じさせるもので、これが本来の鮨(鮓)の形態です。

恵まれた自然環境から生まれた鮒寿し

鮒寿しはもともと中国奥地で鯉を使ってつくられた寿司が始まりで、製法が近江に渡来してから鮒が使われるようになったといわれます。その素材に最も適しているのは琵琶湖の固有種であるニゴロブナです。

昔は今の田圃のように整備された田圃ではなく、梅雨時などの大雨では田圃も川も一面になり、そこに遡上した鮒が田圃の中で産卵したものでした。水田がニゴロブナの産卵場所になっていたのです。

地域によってはニゴロブナのことをイヲといいますが、ニゴロブナが産卵のために遡上してくるさまを、水面が山のように盛り上がって見えたことから「イオ島」とか「魚島」とか呼んだものでした。

このように一時期にたくさんとれる鮒の保存方法のひとつとして、鮒寿しの製法が定着していったと思われます。しかしそんなニゴロブナも昭和60年頃から漁獲量が年々減少し、今では稀少な魚となってしまいました。

鮒寿しは、近江のハレのご馳走

今でこそ高価な食べ物になってしまいましたが、鮒寿しはハレの場には欠かすことのできない食べ物でした。

昔は近江の多くの家庭で漬けられ、お正月に樽を開けてお客さまのおもてなしをしたことからハレの日の筆頭となりました。時季的にもちょうどおいしい頃になるのです。

また結婚式や法事、お祭りなどに出され、現在も祭典の神饌物としてお供えされているところがあります。地域に根ざした伝統食であり、いわば近江のソウルフード、それが鮒寿しなのです。